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フカヒレと土鍋ご飯

皆さんご存じのフカヒレ、どんな鮫のどの部位か? ヨシキリザメ、モウカザメ、コトザメ、アオザメなど、部位は背びれ、手びれ、尾びれが有名。僕の店では主にヨシキリザメの尾びれを使っている。サメのヒレを乾燥させて作られた乾貨(中国料理の乾物)は、江戸時代から中国への輸出品として珍重されていたという。

うちの店ではカチンカチン乾燥状態のフカヒレを手作業で戻すところから始まる。砂と呼ばれる鮫肌の表面にこびりついたものをとり、沸かした湯の中に入れて一晩おき、また砂をとり、水を流し、を繰り返す。次に熱湯につけて一晩おいたフカヒレの内側の骨を少しずつ外し、ぬめりをとる作業がある。これまた数日繰り返し、一週間ほどするとようやくやわらかく飴色の縦に筋の入ったフカヒレの姿になる。下ごしらえの最後は、上質なスープを張ってせいろに入れ、味を含ませる。

こうして一週間かけて戻したフカヒレをお客様の注文に合わせ、煮込んで仕上げるのである。上海料理では、葱油を190℃くらいの高温に熱したところに、紹興酒と6時間かけてとったスープを一気にザアッと入れて白濁させ、ほんの少しの醤油とオイスターソース、胡椒で味をつける。ここにフカヒレを入れ、小さなコンロでコトコト煮込む。約50分間で白濁していたスープが次第に茶褐色となったら、さぁいよいよ最後の仕上げである。大きなコンロに移し、いきなり強火にする。コトコト炊いていたものを急に強火にすることでフカヒレから出たコラーゲンとあいまってスープの味が一気に変わってくるのである。ほんの少しの片栗粉と葱油を加え、五徳の上でジュワ~ジュワ~と鍋を回せばとろみが飴のようになり、スプーンにのせて口に運んだときの、あの上唇と下唇がくっついてしまうほどの旨味たっぷりの粘りが生まれてくる。中国料理のまさに王様的な煮込み料理の一つである。生のフカヒレを干しておいしさを凝縮させ、それをまた戻すことで別のおいしさを引き出す、中国の人はすごいなぁと思う。

さらに、フカヒレを食べたあとの〝ゴールデンドロップ〟ともいえる餡を、そのまま放置するのはもったいないと思い、あれこれ考えてご飯を混ぜて食べてみると、これが絶品。子どもの頃に母がよく作ってくれた、煮魚のたれをご飯にかけて食べたときのおいしさと味は違うものの、ご飯がおいしく食べられる嬉しさに、「よしこれだ!」 と、常連のお客様に出してみたところ大好評。「脇屋君、フカヒレとご飯、中国でもこんな食べ方があるの?」と聞かれ、「いえいえ、これはWakiya流です」。以来、僕の店ではフカヒレと一緒に土鍋で炊いたご飯をお出しするのが〝お約束〟である。食いしん坊の子どもがそのまま大人になり、ふと試してみたことが店のスペシャリテになるとは。
料理というのは本当におもしろい。

「味の手帖」(2020年5月号掲載)
イラスト=藤枝リュウジ

 

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