暑くなると無性に食べたくなる冷やし中華。醤油と酢にマスタードをツンときかせた昔ながらのタイプ、もしくは練りごまを使ったちょっとリッチなタイプ。いろいろ味付けはあるが、大きく分けるとこの2つが主流だろう。
中国大陸に行くと冷麺は「涼拌麺」といって、日本の冷やし中華とは少し違う。豚肉と野菜を炒めたものを人肌程度に冷まし、麺の上にのせて食べるイメージである。広大な大陸で使われる野菜は地域によって様々、トマト、きゅうり、とうもろこし、冬瓜など畑に実るものを使い切る。今の若い人は別だが、ある程度年齢の行った方々は料理を冷たく冷やして食べる、ということをあまりしないのである。
日本における冷やし中華は、茹でて流水にとってから氷水でシャキッと冷やすのがお決まりだ。不思議なことに、冷やしそばの場合そば玉は平均160g、それに対して湯麺の場合は平均120gと異なる。冷やしそばはどちらかというと麺が多く、ボイルした麺を氷水でシャキッとさせてからごま油少々をふる。皿に中高に盛り、きゅうり、ハム、鶏肉、チャーシュー、しいたけ、錦糸卵やくらげなどを放射状に彩りよく飾ってタレを添える。麺160gに具材を色々のせると750gぐらいの仕上がりになる。一方、120gの麺にスープ400cc、その上に海鮮、五目、豚肉とザーサイの細切りなど、具材をのせて出来上がるのが、いわゆる「〇〇湯麺」というものである。麺、スープ、具材の総重量は約800g。湯麺一杯を食べると男性はほぼ満足、女性はスープを残してちょっと多いかな、そんな具合になる。冷たい麺の方がいくらか総重量は少ないが、不思議と食べた感があり、その理由は、味、香り、食感の具材が様々盛られているからではないかと思う。
うちで出す冷麺は家宝(笑)の江戸切子の器を使っている。冷蔵庫でキンキンに冷やした器に盛りつけた冷麺をサービスマンが運んで来たら、まずは両手でガラスの触感を確かめていただきたい。指先からヒヤッと冷たくなり、そしてこれは僕なりのスタイルだが、上にのっている8種の具材をまずは前菜のように食べる。蒸し鶏をむしゃむしゃ、チャーシューをむしゃむしゃ、それで冷えたビールをゴクリと飲む。合間にせん切りのきれいなきゅうりをシャリシャリ、きゅうりの後にくらげのコリコリ感を確かめ、ビールをゴクリゴクリ。こんなふうに8種の前菜をある程度楽しんでから、おもむろに麺と残った具材を混ぜ、ごまとマスタードのきいたタレでズルズルっと頬張るのだ。
太陽がチリチリと暑く、おでこから汗が噴き出すなかで具材をつまみにビールを飲むうまさ、ビールの後に食べる麺のうまさは……ヒャー、たまりません! 毎年のことながら思わず、うぉおお!と叫んでしまう。今年もビールに感謝、冷やし中華に感謝。マスタードが鼻にツンと来る夏の風物詩である。
「味の手帖」(2021年8月号掲載)
イラスト=藤枝リュウジ