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噴火湾のたらこ

北海道函館を代表する魚で5本の指に入るものといえば、鮭、鱈、鯡、桜鱒、ホッケだろうか。

皆さんご存じの鱈は、マダラとスケソウダラの2種類がある。冬に食べる白子はマダラの白子で、スケソウダラの白子はもっと小さい。冬になるとおふくろがスケソウダラの白子でおつゆを作ってくれたが、これが子供ながらにしみわたる美味しさで、味の記憶として残っている。

同じくスケソウダラの卵巣、たらこが大好きでよく食べた。ご飯の上にのせてピンク色の薄皮をお箸でプチっと割り、ピタピタくっついている無数の卵を口に頬張り、ご飯をかき込む。おふくろはよくたらこの周りをこんがり焼いて出してくれた。焼くと周りは少し硬くなり、中は半生で、噛むとジュっと出てくるのがたまらなく美味しくて、おにぎりに入れると最高だったのを覚えている。

北海道庁からの依頼を受け、北海道「食のサポーター」を務めてかれこれ十数年が経つ。食のサポーターとは、北海道全土の食材、商品と、それにかかわる人を訪ねて直接話を聞き、自分なりにかみ砕いて国内外に発信する、という名誉ある仕事である。その一環で、こんな出会いがあった。

たらこが名産の鹿部町で、『丸鮮 道場水産』の社長にたらこを食べさせてもらったときのことである。味の塩梅が素晴らしく、聞けば水揚げ後すぐに加工するので最高級の品になるのだという。なにしろ工場の目の前は海、そこに船が着き、すぐに加工できるという環境なのである。

そのたらこを使って何か新しいものを作ろうと、息子さん(今の社長)と話し合い、「原料ばかりが九州に行き、北海道の名前は出てこない。九州の明太子に負けないものを作って、北海道でもたらこを使った名産品がある、と広めたい!」ということになった。そして約1年をかけて、「黒胡椒たらこ」「麻婆たらこ」を完成させたのである。福岡の明太子も美味いが、それに勝るとも劣らない美味さで、自分でも素晴らしい出来だと思った。「黒胡椒たらこ」は胡椒の上品な香りとピリッとした麻の味わいでお酒に合い、ワインとも実によく合う。一方の「麻婆たらこ」は、麻と辣を効かせた、やや辛めの後をひく美味しさだ。

発売から9年余りが経ち、残念ながら爆発的ヒットとはいえないものの、根強いファンのおかげで、この2種のたらこはデパートでの販売や通販などを通じて全国に出回っている。いつか日の目を見ることができたら、なお嬉しい。その日を思い浮かべながら、せっせと自分の店でもコースのシメの食事にお出しして、お客さまに召し上がっていただいている。

『Wakiya一笑美茶樓』『トゥーランドット臥龍居』の店頭でもご用意しています。お越しの際はぜひお声掛けくださいませ。

「味の手帖」(2021年7月号掲載)
イラスト=藤枝リュウジ

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