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唐辛子いろいろ

「GTFグリーンチャレンジデー」という新宿御苑で行われるチャリティーイベントに、10年ほど前から参加している。ある年にイベントで出した料理に使ったのが、江戸東京野菜のひとつ「内藤とうがらし」である。400年前の江戸時代、新宿御苑のあたりは内藤新宿と呼ばれる宿場町で、その近郊で作られていたそうだ。町の都市化や他品種の出現により一度は衰退したものの、市民グループの働きによって2010年に復活、2013年には伝統の「江戸東京野菜」に認定された。内藤とうがらしは、辛味が優しく、香りとうま味があり、若いうちは葉も使える万能な和のハーブといったところだろうか。

中国でも唐辛子は色々な種類があるが、いちごのような逆三角形で、天に向かって大きくなる四川省の朝天唐辛子は有名な品種のひとつだ。中国から輸入した朝天唐辛子は、料理するときに中の種を取り除く。ものは試しとその種を鉢に植えてみたところ、なんと芽が出て花が咲き、実がなったのである。いちごの実は下を向いて下からだんだん赤くなるが、この唐辛子は上を向いて成長し、鮮やかな緑色がだんだん濃くなり、やがて真っ赤に色づく。以来(内緒の内緒の話であるが)季節になると自家用の分だけ種を撒き、成長を見守っている。青いうちにもぎ取って細かく刻み、豆腐の上にのせて塩とごま油少々をふりかける。ひやーっとする爽やかな辛さが大豆本来のうま味を引き立て、醤油をかける冷奴も良いが、この唐辛子、塩、ごま油で食べる豆腐は最高、と自画自賛している。

さて、うちの店に朝天唐辛子を使った「歌楽山龍蝦 活オマール海老の朝天唐辛子炒めヒーヒーアーヒー」という名物料理がある。まずは、鶏手羽に美味しい調味料をからめて揚げる。オーダーが入ってから活けのオマール海老をばらす。頭からはさみを入れて、一尾を8~10等分に分け、少量の片栗粉をまぶして180℃の油で油通しする。半生の状態で引き上げておき、そこに粒山椒、ねぎ、大量の朝天唐辛子を入れてゆっくり辣油を注ぎながら乾燥の唐辛子がぷくっと膨れるまで丁寧に煎る。深紅の唐辛子が膨らみ、香りが立ってきて、炒める料理人が唐辛子のカプサイシンにゲホゲホむせるようになったら、揚げたオマール海老と鶏手羽を入れてイチ、ニ、サン、調味料を加えてイチ、ニ、サン、と大きく煽って仕上げる。

このオマール海老の朝天唐辛子炒め、一度食べるとやみつきである。海老の甘さと唐辛子の辛味。海老のあとには鶏手羽をむしゃむしゃと頬張る。中国大陸では、この料理をザリガニで作ることが多く人気がある。が、僕としてはザリガニも良いが、やはりオマール海老の甘みのある身と鶏手羽を手づかみで食べる美味さは格別だと思う。食べているうちに心地よい辛さと美味しさで、だんだん楽しくなってくる。まさしく辛さにヒーヒー!楽しくアーヒー♪と歌いたくなる一品なのである。

「味の手帖」(2021年9月号掲載)
イラスト=藤枝リュウジ

 

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