北海道での子供時代、週末になると家族で近くの温泉に行った。その途中、春先には道の脇に生えている蕗を採った思い出がある。母親が煮る蕗はほんのり甘く、しょっぱくない。蕗の香りは子供にしてみるとあまり好ましいものではなかったが、なぜか母の味の一つとして記憶に残っている。大人になり、いつのまにか山菜特有の香りや苦味においしさを発見するからおもしろい。
日本全国には食べられる野草「山菜」が数多くあり、採れる時期や場所もいろいろである。
僕がここ数年で最も注目しているのは、十勝の〝山菜ハンター〟藤本涼という人。まだ若いが、地元のお母さん達と交流して土地のことを知り尽くしている。どこで何が採れるかという知識が豊富で、素晴らしい山菜を見つけては東京・赤坂の僕の店に送ってくれるのだ。
山菜採りは自然を相手にするのだから、ある意味命がけである。山菜ハンター藤本は、体に鈴を付けチリンチリンと熊よけの音を出し、目印を付けながら山菜を探しに行く。雪の隙間から土が見えてくる頃、最初に姿を現すのが、皆さんご存じのフキノトウである。山菜ハンターが採ってくるフキノトウはびっくりするほどの大きさで普通の3、4個分あり、つぼみがギッシリ詰まっている。そのつぼみの皮を一枚めくり開いた時のフキノトウが放つ香りは、おおお~と思わず深呼吸したくなる香りである。
はがした外側の皮をよく水洗いし、小松菜の葉少々と水を入れて青汁を作る。この青汁に小麦粉を加えて衣にする。中国語の揚げ物では「脆」という言葉を使う。日本語で言うとカリッとさせる、サクッとさせるという意味合いがある。日本の伝統的な天ぷらと中国料理の天ぷらの違いは、衣の水と小麦粉の中にベーキングパウダーとほんの少しのオイルを入れる。いろいろな野菜はもちろんのこと、新鮮な魚介や肉などにこの衣をつけて、中国料理ならではの「酥炸○○」、「脆○○」という料理が作られる。
山菜ハンター藤本はフキノトウに始まり、次に採るのは女性の小指ほどの太さがある行者大蒜である。薄皮をスッとむくと美しい紫の色合いで、天ぷらはもちろんのこと、北海道では羊の肉とジンギスカンで食べるのだ。羊の肉をサッとあぶり、ピンク色になったところで行者大蒜を巻き、タレをつけて食べる。口の中に広がる肉と行者大蒜の香り、たまらなくうまい! また、行者大蒜を醤油漬けにして一年置き、日本酒のお供にかじって食べる。お銚子が一本、また一本と進むおいしさである。
行者大蒜の後はウド、ヤチブキ、タラノメなどが続く。ハンター藤本曰く、今年は雪が少なく土が凍っているため、山の芽吹きは少々遅いだろうとのこと。自然相手に探しあてる楽しみと喜びを感じられる山菜は、まさに春の代名詞である。
春よ来い。北海道の遅い春に今からワクワクしている。
「味の手帖」(2020年4月号掲載)
イラスト=藤枝リュウジ