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チャリティが結ぶ縁

緑色のなすにびっくり! 淡い緑の美しいなすは、広島市安佐北区狩留家で作られているブランド野菜、その名も「狩留家なす」である。狩留家なすは通常のなすよりも柔らかく、甘味があり、加熱するとトロッとした食感を味わえ、アクも少ないので生食も大丈夫。中国料理ならではの麻婆茄子はもちろんのこと、なすを箸くらいの太さに切ってせいろに並べ蒸すこと6分、指先で押すと赤ちゃんのほっぺみたいに柔らかくなる。黒酢大さじ2、ごま油大さじ1、醤油小さじ1、砂糖小さじ1、生姜のみじん切り小さじ1、花椒を少々でタレを作る。蒸したてのなすをこのタレにつけて食べるとつるっとした食感、黒酢の酸味が鼻腔に抜けていき、山椒と生姜のアクセントが狩留家なすのうまさを引き出してくれる。

この狩留家なすとの出会いは、2015年に参加した8・20広島土砂災害復興支援チャリティ「夢の饗宴 8人のシェフによる至高の晩餐」がきっかけである。イタリアンの片岡護シェフの声掛けで、東京と広島県内から8人の料理人が『ANAクラウンプラザホテル広島』に集まり、一夜限りの特別ディナーを作り上げた。300名のお客様と沢山のスポンサーの方々にお出ましいただき、このチャリティイベントを通じて集まった義捐金は100万円以上。こちらは安佐北区可部東「高松山墓所の流出ご遺骨の合同塚建立」の基金として寄付された。

さらなる支援、そして災害の記憶を風化させないためにと、2017年、2019年にもシェフ有志が集まり、チャリティパーティーを開催した。2017年には、義捐金で建てられた合同塚のある被災地を、イベント本番の前に参加シェフ達で訪ねた。ここでは、「木々の成長と共に被災を忘れず山を大切に育てていく」という趣旨で段階的に植樹が行われている。春には水仙や桜が咲くという綺麗に整備された登山道を歩いていくと、なんと! 傍らに立つ石碑に自分達の名が刻まれていた。「おおおっ!」  思わず大きな声で一同びっくり仰天。感謝感激雨あられ、とはこういう時に言うのか? そんな驚きに打たれた。そして、しみじみ自分の名前を見て「料理人という立場で少しでもお役に立ったかな」と心のうちに問いかけたことを覚えている。

3回にわたる復興支援チャリティは手作り感があり、ボランティアによる事務局のスタッフの方々、ホテルのシェフ達やサービスマン達がいつも温かく我々参加シェフを迎えてくれる。イベント後の打ち上げでは、決してぜいたくではないのだが、残った材料プラスアルファで工夫して料理をふるまってくれるのが恒例である。自分自身の達成感も手伝って、皆で酌み交わす普通のお酒がこの上ない美酒に変わり、まかない的な料理もごちそうになり(笑)、たまらなく愛おしく、楽しい時間になる。

料理を通して少しでも誰かの役に立てること、またそれが新たな人や食材との出会いに結びつくことが嬉しい。参加して下さったお客様、現場の方、様々な食材を調達して下さった方、生産者の方、みなさんに感謝を申し上げます。合掌

「味の手帖」(2020年9月号掲載)
イラスト=藤枝リュウジ

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